男女共同参画 

以下の文章は 応用物理 第71巻 第7号 912ページ に掲載されたものです。

(2002年3月7〜9日 パリ・ユネスコ本部)

物理学における女性:国際会議決議
Conference Resolution: International Conference on Women in Physics, Maison de I'UNESCO, Paris, France, 7-9 March 2002

はじめに

 物理学は、われわれが住んでいる世界を理解する際に重要な役割を演じる。また物理学者は、世界の人々(nationsは国家countryというよりは民族、人民)の福祉や経済発展に多大な貢献をしている。物理学者の知識や問題解決能力は、多くの職種や業種において、さらに社会一般にとって不可欠である。今日のように技術が急速に変ぼうする世界において繁栄していくためには、すべての国家は、高等教育を受けた男性、女性を一定数生み出し、彼らが自らの福利にとって重要な決定に十分かかわるようにしなければならない。
 よって物理学の知識は、すべての市民のための一般的素養の重要な部分をなしている。さらに、物理学に対する理解を促進することは知的興奮に満ちた課題である。なぜなら、そのために、文化的背景の異なる男性たち、女性たちが、多様で互いに補い合うアプローチをとるからである。今や、女性たちはこの知的探求に対して、さらに、物理学を通して人類の福祉に対して、貢献する能力をもち、また実際、貢献している。ただし、その数はごく少数に限られているという点で、女性は十分に活用されていない「知的予備軍」であるといえる。女性たちが研究現場の研究者として、また研究指導者、教員として、政策決定者として、十分参画してこそ、技術社会において男性たちと同等のパートナーになったと感じることができるのである。
 本会議おける決議に盛られたアイデアは、女性たちを物理学の主流と指導者の立場に置くことをめざしているものであり、2002年3月7〜9日にパリのユネスコ本部にて行われた「物理学における女性」国際会議にて、65カ国から300人を越える参加者により全会一致で同意されたものである。
 各国の状況はそれぞれに異なっていることをかんがみて、参加者は、この決議文をそれぞれの言語に翻訳している。その翻訳作業において、決議文の中のアイデアは適切に表現され、それぞれの国の責任ある機関に向けて発信されるべきである。

1. 学校およびその政府助成機関に向けての決議

 学校においては、女子生徒たちも男子生徒たちと同様に、物理学を学ぶ機会と励ましをうけるべきである。両親と教師が女子生徒たちを励ますならば、物理学は彼女たちに自信をもたせ、さらに前進させる。物理学の教科書や教育方法には、女子生徒たちの関心を喚起し彼女たちの成功を導いてきた内容を盛り込むべきである。調査によれば、少女たちは人々の生活改善に役立ちたいという強い意志をもっている。それゆえ、物理学が社会において積極的なインパクトをもっているということを知る機会を彼女らに与えることは重要である。

2. 大学に向けての決議

i. 学生

 大学側は、女子学生に男子学生と同等に成功に向けた機会を与えるために政策と手続きがとられているかを検討すべきである。差別を温存するすべての政策は廃止すべきであり、参画を推進する政策を採用すべきである。以下のようなことが実行可能である。物理学に対して幅広い学際的方法をとること、物理学専修へ基準を柔軟にすること、研究に早期に参加させること、指導助言者を配置すること、物理学がそのほかの科学・医学・産業や日常生活の質的向上に及ぼした重要な貢献に触れさせること。これらを実行することは、物理学の分野で疎外と排除を感じてきた若い女性たちにとって、特に積極的な効果をもたらす。

ii. 大学教員および研究者

 近年の調査では、トップの研究機関においても、女性研究者は男性の同僚たちと比較して公平に待遇されていないことがわかっている。この事実は、科学分野における女性にとって大変な障害である、長期的に見れば、科学自体にとっても障害となる。大学は、政策と現状を検討し報告することによって、平等を推進することを確認していかなくてはならない。大学が透明で公正な採用と昇進の機構を保証することが、最大の重要事項である。成功へのさらに重要な要素は、研究助成金および研究設備にアクセスできることと研究の時間を十分とれるようにすることである。
 家庭をもつことが、科学分野への助成の参画を妨げることになってはならない。保育施設、フレックス制の導入、キャリア夫婦のための雇用機会など、家庭に優しい環境を作ることが、女性科学者のキャリアを成功に導く。
 大学の運営は、これまで男性優位であった。女性も大学および物理学科の運営、とりわけ重要な政策委員会にはメンバーとして加えられなければならない。自らの将来に影響を与える政策に対して、女性も意見を述べていかなくてはならない。若手の女性物理学者の発展にとって、研究・教育・指導において活動している女性の成功者たちを見ることは重要である。

3. 研究機関に向けての決議

 研究機関は、女性科学者を成功させる政策によって恩恵を受ける立場にある。機関長は、採用と昇進において、性の平等を推進する政策が採用され施行されていることを確認すべきである。「ガラスの天井」と呼ばれるものが、女性科学者のキャリア昇進を妨げてきたことがしばしばあった。
 機関長は、保育施設、柔軟な勤務時間など家庭に優しい方策が全ての人々に与えられるように活動すべきである。調査の結果、女性にとっての最大の懸念は、キャリアと家庭の両立に対する不安であることが繰り返し示されており、家族をもつことによって、研究に参画して成果を上げることが妨げられるようなことがあってはならない。

4. 企業研究所に向けての決議

 企業研究所は、女性科学者を成功させる政策によって恩恵を受ける立場にある。所長は、採用と昇進において、性の平等を推進する政策が採用され施行されていることを確認すべきである。「ガラスの天井」とよばれるものが、女性科学者のキャリア昇進を妨げてきたことがしばしばあった。
 所長は、保育施設、柔軟な勤務時間など家庭に優しい方策がすべての人々に与えられるように活動すべきである。調査の結果、女性にとっての最大の懸念は、キャリアと家庭の両立に対する不安であることが繰り返し示されており、家族をもつことによって、研究に参画して成果を上げることが妨げられるようなことがあってはならない。

5. 学協会に向けての決議

 科学者協会ならびに専門家協会は、物理学における女性の数と成功とを増加させることについて主要な役割を演じることができるし、またすべきである。それぞれの協会は、このような問題に関して責任をもち、協会全体に対して助言を行うような委員会、あるいは作業グループをもつべきである。少なくとも、協会は以下のことを行うべきである。ほかの組織と協力して、あらゆるレベルの物理学における女性の参画状況に関する統計データを集計し、入手できるようにすること。女性物理学者を特定し、ロールモデルとして公表すること。協会が後援する会議などにおいてプログラム委員会や招待講演者の中に女性を含めること、協会の雑誌の編集者の中に女性を含めること。

6. 各国政府に向けての決議

 物理学は、われわれが住んでいる世界を理解する際に重要な役割を演じる。また物理学者は、世界の人々の福祉や経済発展に多大な貢献をしている。したがって、すべての国民に対して強力な物理教育を提供し高度の教育と研究を支援することは、国家自身の利益をなる。政府は、女性たちが男性と同様に、研究と教育において、成功への道とチャンスが与えられることを保証しなくてはならない。国の計画委員会や評価委員会に女性が含まれているべきであり、政府の補助金は、男女平等を施策の一部としている機関・研究所にのみ交付されるべきである。

7. 研究助成機関に向けての決議

 科学研究費助成機関は、科学全体の発展を促進するだけではなく、個人研究者の成功を促進するうえで重要な役割を担っている。しかし過去の調査によって、審査の過程においてジェンダーバイアスが存在することが証明されている。したがって、男性と同様に女性が研究費助成を獲得できることを保証するためには、助成の選定は、透明で広く公表されていなければならない。助成金獲得の基準は明確でなければならない。あらゆる審査と決定において女性を加えるべきである。家庭をもつ応募者にとって決定的に不利となる年齢制限、補助金の構造、期間などは、再検討を要する。研究助成機関は、助成に応募して獲得した男性と女性の割合と資質に関する情報も含むジェンダー別統計データを保持し開示すべきである。

8. IUPAPに向けての決議

 IUPAPは物理学者からなる国際組織であり、発言や活動を通じて、物理学界にかなりの影響力をもつを団体である。IUPAPは、他団体に向けた前述の決議に支持を与えるとともに、自らの活動を再検討し、物理学における女性の数と成功例を増やすうえで貢献していることを確認すべきである。また、IUPAPが、本会議の結論を他分野の国際的科学者組織にも伝えることは意義あることである。IUPAPの運営理事会と専門委員会のメンバーの選挙においては、女性が必ず含まれるような手続きが確立されなければならない。IUPAPは、主要な国際会議を支援しているが、その被支援団体を選考する基準のひとつは、国際諮問委員会およびプログラム委員会に女性が選ばれていることが示されていることでなければならない。IUPAP は、会議の組織委員会に招待講演者のジェンダー配分について報告を求めるべきである。IUPAP はの各国の連絡委員会に女性委員を含めることを奨励すべきである。連絡委員会も上記の決議をそれぞれの国において主張していくべきである。IUPAPは、「女性物理学者についてのワーキンググループ」を継続し強化して、できる限り多くの国々をメンバーに加えた国際諮問委員会を設置することを目指すべきである。そして、最後に、このワーキンググループは、物理学における女性の数と成功を増進するという仕事継続するためネットワークの基礎を作っていくものである。

翻訳:北原和夫(国際基督教大)、小舘香椎子(日本女子大)


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